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港めぐりツアー2017・長崎公演ライブレポート

6.21.2017 | ARCHIVES, |

妹尾武の「港めぐりツアー2017」長崎公演レポートを、フリーライター・福地晃弘氏に執筆いただきました。
臨場感あるコンサート会場の様子をぜひお楽しみください。
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コンサート当日、快晴に恵まれた長崎港を望む

 

 

今年で13回目を迎えた妹尾武の「港めぐりツアー」。横浜を皮切りに福岡、長崎、神戸の4ヶ所で行われたコンサートの長崎公演(2017年6月4日開催)をレポートする。

 

この日の長崎は快晴。最高気温は26℃を超え、半袖が心地よい程の陽気だ。会場周辺には、グラバー園、大浦天主堂のほか、軍艦島上陸クルーズの出発港もあり、長崎の定番観光スポットが密集している。
運が良ければ会場すぐ近くの港に大型客船が停泊することもあり、圧倒的なその外観は一見の価値がある。
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コンサート翌日、会場近くの港に寄港していた大型客船。ほとんどビルである

 

 

会場の旧香港上海銀行長崎支店は、国の重要文化財に指定された1904年建設の石造りの洋館。
午前9時から午後5時までは建物内が一般公開されており、明治・大正の重厚なモダン様式を偲ぶことができる。
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旧香港上海銀行長崎支店は、建築家・下田菊太郎が設計した石造りの洋館

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左:コンサートは異国情緒あふれる1Fのホールで行われた
右:2F、3Fは当時の面影を残す瀟洒なモダン建築

 

コンサートは、かつて銀行窓口だった1Fホールで行われた。異国情緒漂うホールの高い天井にはクラシックなシャンデリアが飾られ、床や柱は艶やかに輝いている。開場と同時に60程度の席はあっという間に満席となり、静かに主役の登場を待っていた。

定刻の18:30、国道499号線に面する正面扉が閉まると、車の排気音はくぐもった優しいノイズに変わり、ブラインドの隙間からはわずかな光が差し込む。しばらくして会場後方から主役の妹尾武が登場。拍手に包まれながら観客に深々と一礼をすると、「四季~そして僕は海に還る~」から演奏をスタートした。

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妹尾の演奏が始まると、会場の空気は一変

 

『ARIA』というアニメ作品のために書き下ろされたこの曲は、ノスタルジックな旋律が意識を深い海の底へと誘うような名曲だ。妹尾が柔らかなピアノタッチで音を奏でるたび、この会場だけがゆっくりと世界から隔絶されていくような甘美な印象を覚える。

演奏は続いてオリジナル曲「サクラ咲ク」へ。舞い散る桜を思わせる印象的な旋律は、終盤に向けてエモーショナルに展開し観客の心を揺さぶる。ふと天井を見上げると、国道を走る車の反射光が、不規則な光芒となってキラキラと輝いていた。偶然の光のインスタレーションも相まって、港めぐりツアーは最高の幕開けを迎えた。

演奏が終わると妹尾武がMCで語る。「今日は港めぐりツアーにお越しいただきありがとうございます」「長崎公演は雨降りのことが多くて、こんなに天気がいいのは本当に珍しいですね」「昨日は福岡の門司港でコンサートがあって、今日は特急かもめに揺られて長崎までやって来ました。途中、少し眠ろうと思ったのですが、車窓からの景色が素晴らしすぎてなかなか眠れませんでした」「それでは13年目の港めぐりツアー、ただいまより皆様と一緒に出港したいと思います」。

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最初の演奏を終え、観客に語りかける妹尾武

 

続く楽曲は、ニュース番組NEWS23のオープニングテーマになったKOBUDO -古武道-のオリジナル曲「翼」、そしてアストル・ピアソラ作曲の「リベルタンゴ」だ。どちらもリズミカルかつパワフルなアレンジで、柔らかだった空間に一転して力強く、情熱的なフレーズが響く。演奏は一段高いステージではなく観客と同じフロアで行われているため、激しい曲ではペダルを踏み込む振動が客席にも伝わってくる。この臨場感こそ、港めぐりツアーの魅力である。

「リベルタンゴ」では演奏前に「今日は特別に“長崎フレーバー”を加えて演奏します」と妹尾からの宣言があった。あまりの自然さに全く気がつかなかったが、イントロには内山田洋とクール・ファイブの名曲「長崎は今日も雨だった」の1節が含まれていたらしい。「みなさんわかりました?でも、こういう時に限って、雨が降っていないというね(笑)」。

続いて始まったのは、港めぐりツアー恒例の即興演奏コーナー。観客が選ぶ3つ、4つの音をモチーフに、妹尾が即興曲を演奏し「カタチのないプレゼント」として贈る粋なコーナーだ。

最初に登場した女性が選んだ4音はマイナースケールの音階で、誰がどう聞いてもド演歌調。「これは……『夜桜お七』みたいですね(笑)」。この難しいオーダーを妹尾がどう料理するのか観客が固唾を飲んで見守っていると、やがて4音を軸にしたリフが奏でられ、そこに和音が重なっていく。いつしか演歌のイメージは消え、短調ながらも強い決意を感じさせるドラマチックな楽曲へと早変わりしてしまった。演奏が終わると観客からは割れんばかりの拍手喝采。誰もが音楽という名の魔法にトリコになった瞬間だった。

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即興曲コーナーに立候補した男性と、軽妙なやり取りをする妹尾武

 

続いて登場した男性は、妹尾の力量を試すかのようにアバンギャルドな3音を選択、しかも曲調のオーダーは「爽やかに」である。妹尾が音を確かめるように鍵盤に触れていると、不協和音のように聞こえた3音は、まるで必然の3音であったかように力強いリフへと変化を遂げた。まったくもって羨ましい天賦の才である。演奏が終わるとまたもや拍手喝采が巻き起こり、「いや~、ちょっと爽やかぶったね!」と妹尾は照れくさそうに笑った。こうして、毎年恒例の即興コーナーは大喝采のうちに幕を閉じた。

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左:コンサートは折り返しを迎え、会場周辺は夕闇に包まれる
右:会場内にも夜の雰囲気が色濃く出始める

 

やがて会場周辺が美しい黄昏に包み込まれると、休憩を挟んでコンサート後半がスタート。1曲目は妹尾の敬愛する映画『男はつらいよ』のテーマ曲、続いて映画『海の上のピアニスト』より「Playing Love」が演奏された。夕暮れの港町というロケーションに、これ以上マッチするものはない素晴らしい選曲である。

コンサート後半は、観客のアンケートにもとづくリクエスト曲の演奏が中心となる。「おしえて(アルプスの少女テーマ曲)」「Just the Way You Are(ビリー・ジョエル)」「僕らが旅に出る理由(小沢健二)」「イパネマの娘」など、妹尾が応えた演奏曲はバラエティに富んでおり、音楽性の広さを感じさせる。

妹尾武のオリジナル曲も多数リクエストされ、「いま、会いにゆきます(TVドラマテーマ曲)」「明日は来るから(東方神起)」「新大阪(ゴスペラーズ)」などが演奏された。「新大阪」は、現在は夫婦となった2人が、恋人時代に聞いた思い出の曲としてリクエストしたものだ。アンケート用紙に書かれた観客一人ひとりのエピソードを読み上げながら、リクエストに少しでも応えようとする妹尾のサービス精神が素晴らしい。

リクエストコーナーではその年の流行歌がリクエストされることが多く、ある年はどの会場でも「Let it go(映画『アナと雪の女王』挿入歌)」が大人気だったという。今年は“ある曲”のリクエストが必ず来る!と踏んだ妹尾は、事前にその曲を練習していたがどの会場でもリクエストがほとんどなく、今年は予想を大きく外したという。その“ある曲”とは、星野源の「恋」である。曲名を聞いた会場から「ああ~」のため息と拍手が起きると、「せっかくだから、やりましょうか?」とダンサブルなアレンジの「恋」が披露された。リクエストコーナーでは合計12曲が演奏され、こちらも大喝采のうちに終了した。

さて、2時間ほどのコンサートはあっという間にエンディングである。ラスト2曲は、妹尾自身の出世作となったゴスペラーズ「永遠に」から始まった。“会いたくて会えない夜 想いを空に広げて”という歌詞で始まるブリッジの後、たっぷりの間を置いてサビのリフレインを奏でた妹尾。その瞬間、まるで申し合わせたかのように車の往来が途絶え、静寂の中にピアノだけが響きわたる数秒間が生まれたのは実にドラマチックだった。感極まって涙を流す観客もおり、この日のクライマックスといってよい美しい場面となった。

最後の1曲は、波乱万丈の人生を想起させるオリジナル曲「ワンダフルライフ」。疾走感溢れるこの曲は実にライブ向きの楽曲で、最後の一音まで駆け抜けるように演奏をしてコンサート本編は終了。そして鳴り止まぬ拍手に応えたアンコールでは、アンドレ・ギャニオン作曲「めぐり逢い」が演奏された。
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アンコール曲「めぐり逢い」を演奏する妹尾武

 

この場に集まった観客たちへの感謝の気持ちを一音一音に込める妹尾と、その姿を瞼に焼き付けようと熱心に見守る観客たち。演奏家と観客の素晴らしいヴァイヴが、歴史あるモダン建築の空間を濃密に満たしていた。

会場を出るとあたりにはすっかり夜の帳が下り、夜空には美しい月が輝いていた。日本三大夜景の一つに数えられる長崎港の美しい夜景を見ながら、多幸感に包まれ帰路に着いた観客も少なからずいたことだろう。

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終演後、会場の真正面にはロマンチックな長崎の夜景が広がる

 

 

港めぐりツアー13年目の歴史においては、空席が目立つ年もあったそうだが「継続は力なり」を合言葉にコンサートを重ね、現在はすべての会場が満員御礼になるほどの盛況となっている。妹尾武が観客との掛け合いで紡ぎ出す音楽と、歴史ある各地の会場が作り出すその場限りのマジックは、きっとあなたやあなたの大切な人にとって忘れられない体験となるだろう。

妹尾武の人柄が感じられるこの温かいコンサートを、ぜひ一人でも多くの人に味わってほしい。そう感じた長崎の夜だった。

 

【妹尾武 港めぐりツアー2017 長崎公演SET LIST】
1.四季~そして僕は海に還る~(作曲:妹尾武)
(ARIA The ORIGINATION ピアノ・コレクションII「ディパルテンツァ-旅立ち-」収録)
2.サクラ咲ク(作曲:妹尾武)
(妹尾武「RETRO MODERN DANDY」収録)
3.翼(作曲:妹尾武)
(KOBUDO -古武道-「時ノ翼」収録)
4.リベルタンゴ(作曲:アストル・ピアソラ)

<即興コーナー>
5.即興曲~「前向き」な短調曲(作曲:妹尾武)
6.即興曲~「爽やか」なアヴァンギャルド曲(作曲:妹尾武)

7.幸せのダイニング(作曲:妹尾武)
(映画「ママ、ごはんまだ?」オリジナル・サウンドトラック収録)

~休憩~

8.男はつらいよ(作曲:山本直純)
9.Playng Love(作曲:エンニオ・モリコーネ)
10.いつか来た道(作曲:妹尾武)
(ARIA The NATURAL オリジナルサウンドトラック収録)

<リクエストコーナー>
11.おしえて(「アルプスの少女ハイジ」テーマ曲 作曲:渡辺岳夫)
12.イパネマの娘(作曲:アントニオ・カルロス・ジョビン)
13.ソナチネ 第2楽章(作曲:ラヴェル)
14.明日は来るから(作曲:妹尾武)
15.Just the Way You Are(作曲:ビリー・ジョエル)
16.シマダチ(作曲:村上てつや、宇佐美秀文)
17.ノクターン(作曲:ショパン)
18.新大阪(作曲:妹尾武)
19.今、会いに行きます(作曲:妹尾武)
(「いま、会いにゆきます」オリジナル・サウンドトラック収録)
20.僕らが旅に出る理由(作曲:小沢健二)
21.花は咲く(作曲:菅野よう子)
22.恋(作曲:星野源)

23.永遠に(作曲:妹尾武)
24.ワンダフルライフ(作曲:妹尾武)
(妹尾武「RETRO MODERN DANDY」収録)
25.めぐり逢い(作曲:アンドレ・ギャニオン)